アクティブノイズコントロール(ANC)の仕組みとメリット・デメリット
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アクティブノイズコントロール(ANC)は、騒音に対して逆の性質を持つ音を人工的に作り出してぶつけることで、音そのものを打ち消す先進の騒音対策技術です。この画期的な技術が今、オフィスビルや工場における空調ダクトの騒音問題を解決する新たな一手として注目を集めています。
ダクトの騒音対策には、従来からグラスウールなどの吸音材を用いた「パッシブ消音装置」が使われてきましたが、ANCはまったく異なるアプローチで静音環境を実現します。
本記事では、このアクティブノイズコントロールがどのような仕組みで騒音を消すのか、そして従来の装置と比較した場合のメリット・デメリットについて、詳しく解説していきます。
ダクトの騒音については、以下の記事をご覧ください。
目次
アクティブノイズコントロール(ANC)とは
アクティブノイズコントロール(Active Noise Control、以下ANC)とは、騒音に対してその音と逆の性質を持つ音を人工的に作り出してぶつけることで、音波同士を打ち消し合う技術です。身近な例では、ノイズキャンセリングイヤホンにもこの技術が応用されています。
音は、空気の振動が「波」として伝わる現象です。この波には山と谷があり、ANCではこの波の性質を利用します。騒音の波が「山」のタイミングで人工的に「谷」の波を、「谷」のタイミングで「山」の波を重ね合わせるのです。これによって波の振幅が小さくなり、音が聞こえにくくなるというのがANCの基本的な原理です。
ダクトにおけるANCシステムは、主に以下の3つの要素で構成されています。
| ● 制御用マイク
ダクト内の騒音(一次音源)を検知し、その音の波形データを収集します。 ● コントローラー(制御装置) マイクが収集した騒音データをもとに、瞬時に逆位相(波の山と谷が正反対)の音波データを生成します。 ● スピーカー コントローラーが生成した逆位相の音(制御音)をダクト内に放射します。 |
この一連の流れにより、騒音源のすぐ下流で音が打ち消され、静かな環境を実現できます。
消音装置とは
ANCと比較される従来の消音装置は、「パッシブ(受動的)消音装置」または「サイレンサー」と呼ばれます。こちらは、音を吸収する素材を利用して騒音を物理的に減衰させる方法です。
主な種類として、以下のようなものがあります。
マフラー型(吸音チャンバー型)
ダクトの途中に大きな箱(チャンバー)を設け、その内部にグラスウールなどの吸音材を張り付けたタイプです。音がチャンバー内を通過する際に吸音材に吸収され、小さくなります。
スプリッタ型
ダクトの断面を、吸音材を充填した複数の板(スプリッタ)で分割するタイプです。空気が通過する経路の表面積を増やすことで、吸音効果を高めます。
これらのパッシブ消音装置は、音のエネルギーを吸音材内部で熱エネルギーに変換することで音を減らします。とくに高周波音の消音に効果的ですが、ファンが発する低周波音を消すためには、装置自体が非常に大きく重くなってしまうという課題がありました。
アクティブノイズコントロールのメリット

ANCをダクトの騒音対策に採用することには、従来のパッシブ消音装置にはない多くのメリットがあります。
1. 低周波音に対して絶大な効果を発揮
ANCが最も得意とするのが、送風機やファンなどから発生する100〜500Hz程度の低周波音の消音です。
パッシブ型では対策が難しかった特定の周波数の騒音(純音)に対しても、ピンポイントで逆位相の音を生成するため、非常に高い消音効果が期待できます。
2. 省スペース・軽量で設置が容易
低周波音対策でパッシブ消音装置を用いる場合、消音器が数メートル規模になることも珍しくありません。
一方、ANCはマイクとスピーカー、小型の制御装置で構成されるため、非常にコンパクトです。機械室のスペースが限られている場合や、既存のダクトに追加で設置する場合でも、大掛かりな工事を必要とせずに導入できます。
3. 圧力損失がゼロ
パッシブ消音装置は、ダクト内に吸音材などの障害物を設置するため、空気の流れに抵抗(圧力損失)が生じます。この抵抗は送風機の負荷を増大させ、消費電力の増加につながります。
ANCは音波で制御するためダクト内に障害物を置く必要がなく、圧力損失は発生しません。これにより、空調システムのエネルギー効率を損なうことなく騒音対策が可能です。
4. 衛生的でクリーンルームにも対応可能
パッシブ消音装置で使われるグラスウールなどの繊維系吸音材は、経年劣化により繊維が飛散し、ダクト内や室内の空気を汚染するリスクがありました。
ANCはスピーカーから音を出すだけなので、塵やホコリの発生源とならず、病院や食品工場、クリーンルームといった高い清浄度が求められる環境にも適しています。
アクティブノイズコントロールのデメリット

多くのメリットがある一方で、ANCにはいくつかのデメリットや注意点も存在します。
1. 高周波音の消音は不得意
低周波音に強い反面、ANCは波長が短い高周波音の制御を苦手としています。高周波音は指向性が強く、ダクト内で複雑に反射するため、逆位相の音を正確に当てることが難しくなるためです。
2. 電源の確保とランニングコスト
ANCはマイクやコントローラー、スピーカーを稼働させるための電源が必須です。そのため、設置場所での電源確保が必要になるとともに、装置を稼働させるための電気代(ランニングコスト)がかかります。
3. 導入コスト
システム構成にもよりますが、一般的にANCはパッシブ消音装置に比べて、初期の導入コストが高くなる傾向にあります。
アクティブノイズコントロールとパッシブ型のハイブリッド利用がおすすめ
これらのデメリットを克服し、全周波数帯域で高い消音効果を得るために、ANCとパッシブ消音装置を組み合わせた「ハイブリッド方式」が最も効果的です。
具体的にはANCで厄介な低周波音を打ち消し、パッシブ消音装置でANCが苦手とする高周波音を吸収します。この方法であればそれぞれの長所を活かし、短所を補い合うことで最小限のスペースで最大の消音効果を実現できます。
まとめ|ダクト工事なら岩元空調へお任せください
アクティブノイズコントロール(ANC)は、逆位相の音で騒音を打ち消す画期的な技術です。とくに従来の装置では対策が難しかった低周波音に強く、省スペース・圧力損失ゼロ・衛生的といった多くのメリットがあります。
一方で高周波音には不向きで、電源が必要という側面もあります。そのため、騒音の性質や設置環境に応じて、従来のパッシブ消音装置と組み合わせるハイブリッド方式が最適な場合も少なくありません。どのような消音対策が最適かは、専門家による現地調査と騒音分析によって判断することが重要です。
岩元空調では、ダクトの設計や施工だけでなく、工事後のメンテナンスや修理などのアフターフォローにも対応します。定期的なダクト清掃も、岩元空調にぜひお任せください。



